生物多様性の重要性
地球上には推定870万種の生物が暮らし、互いに複雑なネットワークで結ばれています。しかし今、人類の活動によって種の絶滅が加速し、「第6の大量絶滅」が進行中と指摘されています。現在の絶滅スピードは、自然状態の約100〜1,000倍に達すると言われています。
73%
過去50年間で野生生物の個体群が減少した割合(WWF 2024)
100万種
絶滅の危機に瀕している動植物の推定種数
35%
世界の農作物のうちハチなど花粉媒介生物に依存する割合(年間市場価値約577兆円)
3つの多様性
生物多様性は、大きく3つのレベルで捉えられます。
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生態系の多様性
森林、湿地、干潟、サンゴ礁、河川など、さまざまなタイプの生態系が存在すること。
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種の多様性
動物、植物、菌類、微生物など、さまざまな種の生物が存在すること。
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遺伝子の多様性
同じ種の中でも個体ごとに異なる遺伝子を持ち、環境変化への適応力を保つこと。
生き物のつながり:キーストーン種
生態系は複雑な「つながり」で成り立っており、特定の種が消えると連鎖的に崩壊することがあります。生態学者ロバート・ペインが行ったヒトデの除去実験では、ヒトデを取り除いただけで岩場の生き物が15種から8種に激減しました。こうした生態系を支えるカギとなる種を「キーストーン種」と呼びます。
生態系サービス
私たちの暮らしは、生態系が提供するさまざまな恵み(生態系サービス)に支えられています。これらのサービスは4つのカテゴリに分類されます。
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基盤サービス
他のすべてのサービスの基盤となる、生態系の根幹的な機能。
例:土壌形成、光合成による酸素の生成、栄養塩の循環、水循環
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供給サービス
食料、水、木材など、自然から直接得られる資源の提供。
例:食料(農作物・水産物)、淡水、木材・繊維、医薬品の原料、遺伝資源
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文化的サービス
レクリエーション、精神的・文化的な豊かさなど、非物質的な恩恵。
例:自然景観の楽しみ、エコツーリズム、教育・研究、芸術・文化のインスピレーション
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調整サービス
環境を調節し、自然災害や気候変動の影響を緩和する機能。
例:気候の調節、洪水の緩和、水質浄化、花粉媒介、病害虫の抑制
国内外の動向
生物多様性の保全に向けて、国際社会と日本では大きな制度・目標の枠組みが動き出しています。
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プラネタリーバウンダリー
人類が地球上で安全に活動できる限界を示す9つの要素。気候変動・生物多様性・土地利用など9分野で「超えてはならない限界値」を定義したもので、すでに6つの要素が限界値を超過していると報告されています。生物多様性の危機は、気候変動と並ぶ地球規模の緊急課題です。
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昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)
2022年12月にカナダ・モントリオール開催のCOP15で採択。2030年までの23のグローバルターゲットを設定し、生物多様性の損失を止めて回復軌道に乗せることを目指す。「ネイチャーポジティブ」の国際的根拠となる枠組み。
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30by30目標
2030年までに陸域と海域のそれぞれ30%以上を効果的に保全する目標。日本の現状は陸域20.5%、海域13.3%(2021年時点)。保護区だけでなく、企業の緑地や里山など「OECM」の活用拡大が達成の鍵となる。
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生物多様性国家戦略 2023-2030
2023年3月閣議決定。「2030年ネイチャーポジティブ」を掲げ、自治体・企業・市民の連携による取り組みを推進。地域戦略の策定を各自治体に促している。
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生物多様性増進活動促進法(2024年)
2024年4月に成立・公布。企業や団体が自発的に生物多様性の保全・回復に取り組む活動を国が認定・支援する仕組みを整備。民間主体のネイチャーポジティブ行動を法律面から後押しする。
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OECM(保護地域以外で生物多様性保全に貢献するエリア)
保護区以外の場所で生物多様性の保全に貢献しているエリアを認定する仕組み。企業の社有林、都市公園、里山、学校の緑地など多様な場所が対象。北九州でも登録が進む。
北九州市の課題
豊かな自然を有する北九州市にも、生物多様性に関するさまざまな課題があります。
洞海湾の環境回復(継続中)
かつて「死の海」と呼ばれた洞海湾は、公害克服の取り組みにより水質が大幅に改善し、現在は100種を超える魚介類が確認されるまでに回復。一方、底質の改善や生態系の完全な回復には継続的なモニタリングと再生活動が必要です。
放置竹林の拡大
高齢化や担い手不足により管理されなくなった竹林が周辺の里山や農地へ侵食。竹は繁殖力が強く、在来の植生を押しのけて生態系を均質化させます。合馬地区などでの管理継続が重要です。
外来種の侵入と拡大
アライグマ、ヌートリア、オオキンケイギクなどの外来種が在来の生態系を脅かしています。早期発見と適切な管理が地域の生物多様性を守る鍵です。
磯焼け・海の環境変化
海水温の上昇に伴う磯焼け(藻場の衰退)が進行し、魚介類の生息環境が悪化。沿岸の生態系バランスを維持するための対策が急務です。